ソラちゃん

隣家の老犬が死んだらしい。オスのビーグル犬で、名前はソラちゃん。ということくらいは知っていたが、最近になるまでその存在を深く意識したことはなく、むしろ朝方に吠え立てるのを忌み嫌っていたほどであった。それがどうしたきっかけかーーおそらくはその吠え声の減少か、あるいはそれが次第に弱々しいものになっていくにつれてかーー、ソラちゃんの存在が自分の中で大きなものとなっていった。我が家の二階のキッチンの窓から身を乗り出して隣家を覗くと、ソラちゃんの小屋が見え、最近はもっぱらその付近でおとなしくしていた。私は9月12日に、そんな隣家の庭の様子を何の気なくiPadで撮影したが、ソラちゃんがもしもういないとすれば、それが最期の写真になってしまった。その写真を隣人にあげようか、あるいは見せようかとさえ思ったが、残念ながら隣家とはそこまで深い付き合いができていない。というかそもそも、ソラちゃんはほんとうに死んでしまったのか。上述の理由から、そのことを聞くのもなんだかはばかられてしまう。くだんの窓から隣家を覗くと、ソラちゃんの小屋はいつのまにか撤去されていたので、少なくとも昔のような健康状態にないことは間違いないが、部屋で飼われていたり、病院に移されている可能性もなくはないので、なんとも言えない。ソラちゃんの安否が気になった私は、いつもの癖でか、ある驚くべき行動をした。Safariを開いて「どこどこ(自分の住所) ビーグル犬 ソラちゃん」と検索しそうになっていたのだ。そしてその瞬間に、インターネットに書かれていることがどれほど世界のごく一部に過ぎず、そして表層的で瑣末な情報でしかないか、そのことを身をもって知った。